AI学習データ問題に、第三の道を提案する――2025年から2026年にかけて、著作権をめぐる風景が一変

1作品3,000ドル。
それが「使われた分」と
何の関係があるのか
2025年から2026年にかけて、著作権をめぐる風景が一変しました。
AI開発企業Anthropicが、書籍の無断学習をめぐる訴訟で15億ドル規模の和解に合意したと報じられています。対象は約50万作品、配分は1作品あたり3,000ドルとされています。日本でも、読売新聞・朝日新聞・日本経済新聞がPerplexityを提訴しました。
大きな金額です。創作者側が勝ち取った成果でもあります。
ただ、私はこの数字を見て、少し違うことを考えました。
1回しか参照されなかった本も、100万回参照された本も、同じ額。使われた量と、受け取る額に、何の関係もありません。
訴訟という道具は、そういうものです。事後的で、一括で、粗い。そして訴えられる規模の企業と、訴える体力のある権利者しか登場しません。深夜に詩を書き留めた人には、何も届きません。
世界は今、二択で揉めている
現在、AI学習データをめぐる制度設計は、大きく二つの方向で争われています。
ひとつは「使わせない」方向です。EUのDSM指令では、商業目的の学習について権利者がオプトアウトできる仕組みが設けられています。英国では2024年に政府がTDM例外の商用拡張を提案しましたが、クリエイター団体の強い反発を受けて方針が揺れ、立法化は今も続いています。
もうひとつは「原則自由」の方向です。日本の著作権法第30条の4は、情報解析目的での利用を著作権者の許諾なく認めています。ただし2026年現在、クリエイター側の懸念を受けて「著作権者の利益を不当に害する場合」の例外規定が、より厳格に議論されるようになっています。
どちらの道も、苦しい。
「使わせない」を徹底すれば、日本のAI開発は止まります。「原則自由」を貫けば、創作者は報われません。そして両者の妥協点を探る議論は、何年も続くでしょう。
私は、この二択の外に道があると考えています。
第三の道──使わせる。ただし、使った分だけ払う
規制や禁止では、知識の流通は止められません。
ならば逆転の発想を採ります。使われるほど、創造者が潤う仕組みを作ればいい。
技術的には、すでに可能です。
第一の柱|デジタル指紋
作品の登録時にSHA-256ハッシュ値をブロックチェーンに刻む。「誰が、いつ、何を創ったか」が改ざん不可能な形で永続記録される。
第二の柱|自動対価還元
使用・複製のたびにスマートコントラクトが自動的に著作者へ対価を流す。仲介業者も管理団体も介さない。コードが契約を執行する。
第三の柱|個人情報保護との両立
ブロックチェーン上にはハッシュ値のみ。氏名・住所は暗号化データベースに保管。「忘れられる権利」と「改ざん不可性」を同時に成立させる。
価格を、事前に決めない
この構想の核心は、価格決定の考え方にあります。
著作物の価値を事前に決めることは、ほとんど不可能です。無名の写真が突然広まることもある。誰も読まない大著もある。
だからこそ、事前に価格をつけるのではなく、「使われた量が価格を決める」という設計にします。
誰も使わなければゼロ。1回0.001円でも、億回使われれば100万円。作者は価格を決めなくていい。使われた実績が、そのまま報酬になります。
SpotifyやYouTubeのストリーミングモデルに似ていますが、決定的に違う点があります。それらは仲介業者が利益の大半を取ります。この構想では仲介業者をなくし、スマートコントラクトが作者に直接支払います。
そして重要なのは、この仕組みならAI学習にもそのまま適用できるということです。学習データとして参照された回数が記録され、その分だけ自動で払われる。訴訟も、一律配分も、いりません。
なぜ日本にできるのか
日本には二つの条件が揃っています。
ひとつは無方式主義です。日本は、創作された瞬間に登録なしで著作権を認めます。この構想における「登録」は権利発生の条件ではなく、あくまで証明のための任意手続きです。だからベルヌ条約とも矛盾しません。
もうひとつは国立国会図書館です。網羅的な納本制度を持ち、デジタルコレクションを運営する機関が、国家の管理下にある。この規模と信頼性を併せ持つ機関は、世界にそう多くありません。
法改正を待たずに始められる部分もあります。NDLデジタルコレクションの一部にSHA-256ハッシュを付与し、NDL管理のプライベートチェーンに登録して検証ツールを公開する。ここまでは現行法の範囲内で実施可能です。
UCA──Universal Creative Attribution
世界を変えた概念には、必ず名前がありました。「インターネット」「ブロックチェーン」「オープンソース」。名前がつくことで、概念は伝播します。
この構想に名前をつけました。
普遍的創造的帰属
誰もが自由に使えて、意識せずに創造者に対価が届く。知識は解放され、創造者は報われる。その両立を実現する仕組みです。
正直に申し上げると
この提言は、すでに国立国会図書館・文化庁・経済産業省へ送付しています。
しかし、動きは鈍い。
日本の制度は、分かる人に出会わないと動き出さないところがあります。それは仕方のないことかもしれません。技術と法制度の両方を理解し、かつ決裁できる立場にいる人は、そう多くないのですから。
だから、書いています。
一人の研究者の論文が政策を変えたことがあります。一人の書き手の言葉が世論を変えたことがあります。この文章もその一つになりうると、思っています。
技術仕様には、まだ詰めきれていない部分があります。ご批判をいただければ幸いです。特に、法務・知財・AI開発の実務にいらっしゃる方の視点を伺いたいと思っています。
最後に、白状しておきます
この文章は、AIとの対話の中で書きました。使っているのはClaudeという対話AIです。
その開発元が、Anthropic──冒頭に挙げた15億ドルの和解の、当事者です。
私は73歳です。プログラムも書けなければ、ブロックチェーンの実装もできません。それでもこうして提言をまとめ、動くデモを公開し、この記事を書けているのは、AIの力を借りているからです。
つまり私は、この問題の被害者候補であると同時に、受益者でもあります。
だから「AIを止めろ」とは言えません。言うつもりもありません。あの技術がなければ、私はこの構想を形にできませんでした。
しかし同時に、妻は作曲家です。彼女が書いた旋律が、いつか誰にも知られないまま学習データの一部になっているかもしれない。そのとき、彼女に何が届くのか。
私が探しているのは、その道です。
知識はもともと、誰かが命がけで生み出したものです。研究者が何年もかけて書いた論文。画家が人生を賭けて描いた絵。詩人が深夜に書き留めた言葉。
それらがデジタル空間を無限に流通しながら、創造者には何も届かない。
この不均衡を、技術で解決できる時代が来ています。
創造者は報われる。
日昇リサーチ株式会社
https://yymm77.github.io/seimei-kagaku/copyright-proposal.html


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