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第四章・覚醒の時代 連載第九十九話 東京へ、ふたたび

第四章・覚醒の時代 連載第九十九話 東京へ、ふたたび

第 四 章 ・ 覚 醒 の 時 代
連載第九十九話
東京へ、ふたたび

福岡を、去ることに、なった。

来たときは、退路を、断って、希望を、胸に。去るときは、追われるように、して。わずか、二年ほどの、日々だった。

ふたたび、荷を、まとめた。あの、雲の上で、妻に、真実を、告げた、あの飛行機とは、逆の、方角へ。今度は、東京へ、向かう。

帰りの、機中で、彼は、何を、思っていたか。よくは、覚えていない。ただ、来たときのような、高ぶりは、なかった。あったのは、苦さと、そして——どこか、すっきりとした、ものだった。

負けた、わけでは、なかった。曲げなかった。不正を、見て、不正だと、言った。それで、疎まれ、追われた。けれど、心は、まっすぐの、ままだった。失ったものより、守ったもののほうが、彼には、大きかった。

家族も、また、東京へ、戻ることに、なった。妻は、今度も、多くを、語らなかった。子は、また、ひとつ、知らない土地から、知らない土地へ、移っていく。すまない、という思いと、ありがとう、という思いが、彼の胸の中で、混じっていた。

福岡という、街は——彼に、多くのものを、残した。

西新の声。玄界灘の魚。筑紫の米。中洲の祝杯。住みよい、ちょうどよい大きさの、町。そして——同じ国の中に、いくつもの異国がある、という、肌で知った、気づき。組織は、内側から、蝕まれることが、ある、という、苦い学び。まっすぐであることは、時に、罪になる、という、痛み。

来たときの彼と、去るときの彼は、もう、同じ彼では、なかった。福岡は、彼を、変えた。よそ者として、放り込まれ、よそ者として、弾き出された、その二年が、彼の、目を、ひとつ、開かせた。

飛行機は、東京へ、近づいていく。

窓の下に、見慣れた、灰色の、街並みが、広がっていく。生まれ育った、東京。けれど、その東京は、もう、福岡を、知る前の、東京とは、違って、見えた。同じ街が、違って、見える。それは、彼自身が、変わったから、だった。

四十年後の今、振り返って、思う。

あの、福岡の、二年がなければ、彼は、ただの、サラリーマンとして、人生を、終えていたかもしれない。退路を断つことの、重さ。組織の、闇。土地の、歴史。それらを、知らないまま。福岡は、彼に、痛みを、与えた。けれど、痛みは、目を、開く。彼は、痛みとともに、東京へ、帰ってきた。

生かされて、今を、存在する。

追われるように福岡を去り、来たときとは別の人間になって東京へ帰ってきた、あの帰りの機中の、苦くて、どこかすっきりとした思いを、四十年後の今、自分は、確かに、覚えている。

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