連載:至誠の覚醒 第三十三話 本物を見る目
田中先生は、学問だけを教える人ではなかった。
ものの見方を教える人だった。本物とは何か。一流とは何か。それを自分の目で確かめてこい、と常に言われた。
ある日、先生がこう言った。
君、日本橋の三越へ行ったことがあるか。なかったら行ってこい。一流品と三流品の区別がつくまで、通い続けろ、と。
私は行った。
日本橋の三越は、別の空気が流れていた。床の光沢が違った。陳列の仕方が違った。店員の立ち方が違った。何が違うのか、最初はうまく言葉にできなかった。しかし何度か通ううちに、少しずつわかってきた。一流品は、細部が違った。目につかないところに、手が入っていた。
文房具についても、先生は一言あった。
銀座の伊東屋へ行け、と言われた。もう一店、著名な文具店があったが、今は名前を失念している。とにかく、良い道具を使え、ということだった。ノートも、ペンも、妥協するな。道具が思考に影響する。安物で済ませる習慣が、考え方を安物にする。
グラフの線の引き方にも、指導が入った。
定規を使え。フリーハンドで引くな。線の太さを統一しろ。凡例を丁寧に書け。グラフは思考の結果を示すものだ。その結果を雑に扱うことは、思考そのものを雑に扱うことだ。
先生の言葉は、経済学の外側まで届いていた。
一流品に触れることで、自分の中の基準が変わる。基準が変わると、見えるものが変わる。見えるものが変わると、考えが変わる。先生が三越へ行けと言ったのは、買い物のためではなかった。目を育てるためだった。
今も私は、細部を気にする。
道具を大切にする。グラフの線を丁寧に引く。捨てられない性分も、もしかしたらここから来ているのかもしれない。本物には、簡単に手放せない重さがある。
田中先生から受け取ったものが、今もこのサイトのどこかに生きている。
(つづく)R080411

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