◆利他的生き方による「真の自分探し」と日本人の道徳心◆
「なぜ結婚するのか?」という問題は、一見とても難しく、そう簡単に結論が出るようなものではないように思われがちです。
科学の視点を少し離れて、筆者が生きてきた、その経験則からお話をしてみましょう。
結婚は何のためにするのかと聞かれれば、筆者は「それは相手を幸せにするためだ」
と答えます。夫が妻を、妻が夫を幸福にするために人は結婚するのです。少なくともその目的の8割は、配偶者を幸福にするために結婚します。
この世に生を受け、私たちは、親の手で一生懸命に育てられました。その恩を受けて、私たちは次の世代をつくります。
親の恩に報いるために、夫婦というものは相手を幸福にしようとしてお互いに頑張るのです。
そして、これが「絡合」ということです。互いにつながり合う関係の中で、自分以外の人間を幸福にするということほど素晴らしいことはありません。
もちろん、結婚だけが「絡合」ではありません。前述の通り、人間は「個」では生きられません。「群れ」で生きるのです。夫婦が基本単位ではありますが、たとえ独身であっても、群れ(社会)の中で他者と触れ合い、自分自身の役割をまっとうすればいいだけです。
夫婦の間に子供が生まれれば、夫も妻も家族3人の幸福のために全力で頑張ります。
そして3人家族から4人家族へというふうに、結婚とは、家族の幸福の数を増やしていくものです。
もちろん子育てはたいへんな仕事で、特に母親の負担には父親が想像する以上に大きいものがあります。そうしたことを家族で助け合い、困難を乗り越えて、幸福があります。妻も夫も子供の成長を喜び、その喜びを糧に日々努力することが、次の世代の幸福を用意します。
自分以外の人間の幸福こそを自分の幸福だとすることを、「それでは自分というものがないではないか」として認めない人がいます。特に戦後、欧米型の個人主義が教育の現場でもはびこり、「自分というものを探し出すことこそが人間の幸福ではないか」と考える人も少なくないようです。
私たちは「自分探し」をしてみたくなるものです。しかし、この「自分探し」で探し出したい「自分」とは何でしょうか。おそらくは経験や知識の蓄積の中から浮かび上がる理想像としての自分、ということなのだろうと思いますが、それはあくまでも「像」であり、どこにも実在できないものです。
自分以外の人間をどうすれば幸福にできるのかを一生懸命に考え、行動に移し、それが実現した時に自分が得られる喜びは格別です。その喜びこそが実在する自分であって、人を幸福にするために生きることが本来の「自分探し」というものなのだろうと思います。
詳しくは拙著『絡合力』に書きましたが、人間の脳は、利己的な「大脳新皮質」と、利他的な「伝統脳」からできているのです。
一人で旅行に行って美しい景色を見てもその喜びは限られます。自分の家族と分かち合う景色の美しさ、家族に限らず多くの人々と分かち合う景色の美しさのほうが喜びは大きいものです。
人間は生物学的に「自分のため」ではあまり力は出ず、「みんなのため」のほうが意外な力を発揮します。技術の進歩、あるいは経済発展というものも、心の問題が大きく影響しています。
日本人は古来、「みんなのため」が常に頭にあることを「道徳心がある」とし、この道徳心を大切にして生きてきたのです。
『かけがえのない国 誇り高き日本文明』武田邦彦著 MdN出版(R05年)より R080327
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