親と子の間の「接続水域」
婚前交渉の例を「正しさ」という点から見ると、なかなか含蓄があります。
第一に「親と子」というのは「親が正しい」という「仮の正しさ」で成り立っているということです。それは誕生してから18歳までで、それ以後は、子どもが独立します。
アメリカやヨーロッパの文化が正しいということではありませんが、欧米では18歳になると原則として親元から離れ、家を出て、自分で稼ぎながら生活をします。これは大学生でも同じですから、学生はだいたいが貧乏でアルバイトなどをしながら生活をしています。
日本では親子の間が曖昧ですので、どこまで親が「仮の正しさ」を持っているのかハッキリしませんが、18歳になれば自分が正しいと思っている通りに人生を送るので、財産上も親と分離をするということです。ただ情報も多いので、18歳という年齢が少し高いような気もします。
飛躍しすぎていると思われるかもしれない例ですが、島の周りは沖合12カイリまで領海ですが、その先に「接続水域」というのを置いて紛争を防止しています。「公海」から突然「領海」になりますと、「領海に入ったから爆撃した」というようなことが起こるので、その間に「公海と領海の中間」を置き、みんなで接続水域には入らないようにして、攻撃も控えるという方法を採ります。親子の関係でも中学校を卒業する15歳ぐらいまでは「親を正しいとする」という仮の正しさを決めておき、16歳から18歳までの3年間は「 接続時期」として 、半分半分ぐらいにすると親子関係はスムーズになるかもしれません。婚前交渉の例はさらに次のことを教えてくれます。
ある人が「正しい」と思うことは、時代や環境によって大きく変わり、それも30年ぐらいでほぼ反対の判断になることすらあるということです。
だから、「正しさ」という のはいつでも時代や地域、国に よって異なるのは当然でもあります。それは「絶対的な正しさ」を求める宗教でもそうで、エジプトで「一神教の原型」ができるまでは、世界の宗教はすべて多神教で「山の神、海の神」などの方式でした。ところが、エジプトに一神教という概念ができて、それがユダヤ教に引き継がれ、一神教が誕生します。それでもまだ現在の宗教は完成せず、イラン人が統一王朝を作ったときにゾロアスター教ができて、良い神様と悪い神様という2つの概念が誕生します。それがやがて「神と悪魔」になり、現在の宗教になります。古代オリエントを舞台としたこのような宗教の発達は、現在の人間が考える「正しいこと」に 大きな影響を与えていますが、それすら、トルストイがナポレオンを評したのと同じように、「時代の子、場所の子」であることがわかります。
『「正しい」とは何か?』武田邦彦著 小学館より
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