動脈産業の典型的な例としてテレビの製造を取り上げ、静脈はそのリサイクルとします。テレビはプラスチックのキャビネット(外側の箱)とガラスでできたプラウン管、そして電気的な電源や電子回路でできています。キャビネットは石油を精製し、ボリスチレンというプラスチックにしてそれにゴムを混ぜ、成形して作り出します。すべて大量生産で極めて効率的な製造が行われています。その過程では石油精製工場も、プラスチック製造工場も、そして成形工場、組立工場に至るまで、できるだけものを少なく使い、エネルギーを節約し、環境に配慮して製造されます。最高の効率と低い環境負荷といえるでしょう。このような高効率な製造システムが、これほどものを作っている世界の環境を守り、私たちの豊かな生活を支えているのです。
ガラスも電子回路部分も似たようなものです。製造工程は効率よく、人手も少なく、最近の工場はきれいです。昔のように汚い作業場、労働災害、環境汚染などはすっかり影を潜めました。昼夜にわたって連続的な生産をする工場でも、夜間に働く人への配慮は驚くべきほど完璧です。日本の高い工業製品の品質とコストは、このような高度な生産技術によって支えられています。
それに対して、リサイクル側、つまり静脈側は生産効率に限界があります。まず対象とする製品が種々雑多であることです。石油原料から作る動脈側では、毎日一定の形の品質を持った原料が持ち込まれ、きちんとした管理のもとで生産が行われます。それに対して、リサイクル側の原料は、一九八〇年に製造された○○社のテレビ、一九九七年に製造された全く異なる形式のテレビ、といろいろなものが持ち込まれます。それを嫌がって一九九〇年製の口□社の△△形式のテレビしか引き取らない、というシステムを作っても静脈産業は成り立ちません。
形も違い、プラスチックの材料から加工方法、それに組立方式、電子回路などすべてにわたって異なる原料を対象とするのですから、生産効率が悪くなるのはやむを得ません。もし、リサイクルで回収する製品、すなわち他種類の原料を取り扱う自動化設備を使おうとしたら、数百の解体ラインをそろえる必要があり、それはあまりにも非現実的ですから、結局人手に頼ることになります。動脈側が自動的に製造しているのに対して、静脈側が人手に頼っているのですから、その効率は大きく異なります。勢い、動脈側の設備は最新の工場で、素晴らしい設備を使い、静脈側の工場は吹きさらしで、貧弱な設備を使用せざるを得ません。
ここで反論があるでしょう。
「確かに、動脈側の生産効率より静脈側の生産効率が低いのは残念ではあるが、ある意味では当然である。むしろ問題なのは、今まで静脈側を軽視した結果、資源の枯渇や環境の悪化を招いてきたのではないか。考えを転換し、たとえ不能率でも静脈側を育てる必要があるのだ」という意見です。
この考え方は「リサイクルが大変なことはわかっている。しかしそういう考えだからダメなのだ」という意見と類似しています。
ここではっきりさせなければならないのは、「リサイクルが大変とか楽か」ということでもなく、「リサイクルをすべきかすべきでないか」ということでもなく、「リサイクルが環境に良いか悪いか」ということです。
それと同じょうに、静脈産業もそれが良いことか悪いことかは「静脈産業の育成が環境に良いことか、悪いことか」「静脈産業が日本の国際競争力を高めるか?」という意味であって、最初から「静脈産業は良いこと」と決まっているわけではないのです。
かつて米の保護政策が大きな問題になったことがあります。国産の米の生産を守るために補助金を出し、国際価格の数倍の米を生産していたこともあります。当然のことですが、補助金が税金から出ても他の会計から出ても、もとは日本国民が働いて価値を創造した中から支払われています。
それでも、食料は全体で一〇兆円程度でしかなく、しかも国民の生命を預かるものですので、さまざまな議論があるでしょう。
しかし、現在議論している静脈産業は日本のほとんどの生産高を占める工業製品です。この分野の効率が悪くなったら、他の産業でカバーするほどのものはありません。たちまち日本の国際競争力がなくなり、ひどい生活になるでしょう。
動脈産業の効率化が進み、失業率が高くなるので静脈産業を作るという話もあります。しかし静脈産業の効率が悪ければ、それは失業している人に失業保険を支給するのとあまり違わない結果になります。つまり、日本の富が空から降ってくるようなものであれば別です。一昔前には、何でも「税金を使え!」といった時代がありました。そのうち、税金は実は自分たちが支払っていることに気づいて、そのような意見も少なくなってきています。
不能率な静脈産業を育成することは、税金を使うことと同じ意味を持っているのです。自然の利用という点で人間が自分勝手な判断をすることを示しましたが、動脈産業と静脈産業の関係でも同じょうなご都合主義の思考態度が見られます。
『リサイクル汚染列島』(青春出版社)武田邦彦著より
